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高校講師2019 年度 和歌山県立耐久高等学校)/作家/

旧田島うるし工場(和歌山県海南市文化芸術複合スペース運営メンバー)

平成21年度(2009年度) 修士課程修了

大久保 陽平

YOHEI

OKUBO

学生のみなさんへのメッセージ

「時間外でどれだけできるか」


 私の制作スタイルは、制作と仕事を分けて考えています。
 この考え方は、金沢美大での学びと出会いがあったからだと思います。
美大生になった当初は、自分の制作や作品で代価をいただき、生活をすることを目指さなければならないと考えていました。この考えがなぜか自分の中で当たり前にあり、必然的にそこを目指さなければならない固定観念に囚われ、そのために自分の制作に没頭していました。
 しかし、卒業・修了に近づくにつれ、いざ社会と隣り合わせになる時、自分の作品や制作は、お金に変わるのか。仕事になるのか。いやそれよりも社会のためになるのか、なぜ存在させるのか、なんてことを考え、作品の値段や、一般ウケはどのようなものなのかなど考えることもしました。
 特に工芸・陶芸は、人の営みと密接に関わっているので、陶芸といえば器、売れるものは使えるものなど、常に頭の中にあり、必要とされるものは何かと考えていました。この考えは、今でもとても重要で、真剣に作品と社会と向き合うことができた、いい機会でした。
 当時は苦しく、私の作りたいものは身体的用途として使えるものでもなく「どう生きていくのか・どう食べていくのか」と真っ暗な不安の中に押しつぶされそうになり、夜も眠れなくなったこともありました。これは今考えれば、全ての人にやってくるものであり当然のことだと思います
 しかし、漠然とはしていたものの、当時の私には重くのし掛かり、常に何かの不安の中にいたような自分の足で地面に立ていないような感覚だった気がします。
そんな時、当時の金沢美大の先生に言われた言葉で、鍵となる言葉がありました。
それは、「余裕がないと良いものは作れない。それは精神面でもあるし、金銭面でもあるし、人それぞれの余裕がないと。」
 当時の私は、追い込まれなければ良いものは作れないという考えもあり、全く余裕がなく、視野も狭く、心の余裕もなく、金銭面でも余裕がありませんでした。
 しかし、私はこの言葉により、以前の考えには自分は該当せず、色々な面で余裕が必要である自分に気づくことができました。
 当たり前ですが、作り続けるためにはやはりお金も必要であり、しかも私は、恥ずかしながら金銭面によって心の余裕が生まれるタイプだったのだと初めて気づくことができました。
 私はこの言葉によって、自分の制作や作品と、お金や生活すること、を分けて考えることができました。そして、作品で稼がなくても、別の道で稼ごうと。まずは自分の余裕を作るために働き、そして、作りたいものを作り続けようと考えるようになりました。
 とりあえず就職は何でもいい、やりがいが少しあれば仕事は何でもやってやると考えるようになりました。もちろん全ては作り続けるためです。この考え方は、全ての人が当てはまるものでもありませんし、自分の制作や作品で稼ぎ、生活できる人は非常に素晴らしいことだとも思
います。


 そんな時に、運良く講師の募集の話しをしていただき、陶芸とも関係のあるやきものの産業地、岐阜県立多治見工業高等高校専攻科の講師を務めさせていただくことができました。現在は、この講師経験のおかげで地元和歌山でも引き続き仕事に就くことが出来ています。


 このやり方は、自分の作品や分野でお金を稼いでいる人より、絶対的に作品への向き合う時間は限られてきます。そして、仕事でのやりがいも、やればやるほど生まれ、忙しくなってきます。しかし、学生のうちに自分のタイプを理解できたことで「時間外でどれだけやるか」と言
う、ただこの一点の考え方にシフトし、そして、先輩方でも仕事と制作の両立を実践し、制作し続けている人との言い訳もできない出会いもあったことで、今でも一歩一歩の自分のペースですが、軸を持って作り続けることができています。

学生のみなさんやこれから美大を目指す高校生にも、美術芸術大学に行っても就職できないと考えている人もいるかもしれませんが、やりたい職に就けるかはわかりませんが選ばなければ、就職はできます。そして、自分にあった制作スタイルさえ見つけられれば、制作もし続けることができます。
 ですので、今やってみたいと思ったデザインや美術工芸にどハマりし、なんでも良いので、没頭し、夢中になって欲しいと思います。なぜなら就職もできるし、卒業後も制作し続けられるからです。
 私は美大が好きです。一般大学よりも絶対的に価値がある場所だと信じています。

 自分で課題を作り、分析し、考えを構築し、研究し、さらにはカタチにまで創造してしまう力は、何事においても、どの場所でも通用する力だと思っています。
そして、美術芸術大学には人生を楽しめる人たちや世界を彩ることのできる強い同志たちがたくさんいます。個性の強すぎる絶対的面白い
教授陣もたくさんいます。この出会いより勝る価値はないと思います。一生の財産です。

 長くなりましたが、

 最後に金沢美大で講義を受けて強く印象に残った先生の一言でしめようと思います。

 なぜ作るのか?なぜやめようと思わないのか?
 なぜなら「情熱」があるからです。

大久保陽平.JPG
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