卒業生インタビュー!
学生が気になる卒業生・修了生にインタビューしました。
仕事場に訪れいろいろ質問しています。
陶磁
金工
漆・木工
染織
岡本 萌 Megumi Okamoto
H27 工芸科漆・木工コース卒業
Interviewer: 松浦 悠子 (H26入学)
──現在のお仕事とそこに至るまでの経緯を教えてください
株式会社車多酒造という日本酒を作る会社で、今は営業の仕事をしています。
社員の募集をしていない会社でしたが、自分からメールや手紙を送り、見学や面接の機会を頂いて入社しました。
──どうしてその進路を選んだのですか?
単純に日本酒が好きだったから、というのもありますが......工芸を「金沢」で学ぶ中で、金沢だからこそ工芸が知られていて、受け入れられているんだということに気づきました。ちょっと他県へ出ると、私と同年代の若い人たちにとって、工芸は「古いもの」とか、「とっつきにくいもの」として見られてしまう。そう思われているものの魅力を伝えたり、その間口を広げたりすることへの興味がありました。自分が好きな日本酒も同じことが言えるのではと思ったことがきっかけです。
将来的には企画広報をやりたいと思っています。でもまずそのためには日本酒や会社、商品の知識だけではなく、酒類業界のことを知っておかないといけません。営業は現在の市場状況や消費者の声をいち早く知ることができる部署だから、まずは営業部に所属し、沢山の方にお会いすることで日本酒全般について勉強していきたいと考えました。
──どんな環境でお仕事・制作をなさっているのでしょうか?
会社の始業が8時20分で、自宅と会社は車で10分ほどです。12月の繁忙期以外は18時か19時くらいには家に帰れるので、それから家のことをしたり、漆の作業をしたりしています。日曜がお休みでそれに加えて土曜が隔週でお休みです。漆の作業は自宅でしていますが、大学とは設備がまったく違うので、漆が乾かないこともあったりします。
制作では、卒業制作展でお声をかけていただき、昨年は神戸のアートマルシェに出品させて頂き、新しい作品を発表することができました。他にもオブジェ作品を購入された飲食店さんが、偶然勤務先のお酒も扱って下さったりして、仕事と制作の両方が思わぬところで繋がったりもします。
──5年後のビジョンを教えてください
2020年東京オリンピックには積極的に関わっていきたいと個人的には考えています。日本酒の美味しさをより沢山の世界中の方に知って頂けるような仕事がしたいです。
──就活として一番最初に始めたことはなんでしたか?
自分が行きたいと思ったところにメールを出しました。日本酒が好きだったから、募集をしていなくても、できる限りのアピールをしました。日本酒や、この会社にどんな形でもいいから関わりたいということを伝えました。
だから、「美大を出たからこそ入れた」という風には正直あまり思っていないんです。でも、自分が本当にやりたいという気持ちを伝えることができれば、一見すると美術と関係ないような場所にも行くことができるのだと思います。
──金沢美大で学んでよかったことはなんですか?
伝統工芸についての知識をきちんと備えることが出来たことです。加賀百万石の文化が根付く石川県では、地元の方とお話しする際に工芸の技法や活躍する作家さんについて、共通の話題に話が弾むことが多々ありました。
──反対に、金沢美大で学べばよかったことはありますか?
Adobeのソフト、とくにIllustratorとPhotoshopはもっと使えるように勉強しておけばよかったです。「美大生=デザインができる」と思われているのか、そういう仕事を任されることもあるから、「なんとなく使える、知ってる」じゃなくてきちんと使えるようになっておきたかったです。
──金沢美大の欠点は何だと思いますか?
美大、というか美大生の欠点になりますが、美大生は自分のことを特別視しすぎ。金沢は美大生に優しくしてくれる人が多かったりして、美大生が必要以上のブランド価値を自分に感じているように思います。美大で学んだ自分の知識や技術に自信があるのであればなおさら、例えば「IllustratorとかPhotoshop、Office系のソフト使えるようにする」というようなことも必要になるはずです。
──美大生へのエールをお願いします。
私は、大学を出ていきなり制作だけで食べていくのは難しい、となったときに、いわゆるフリーターで正社員と同じくらいの時間を割かれるくらいなら、いっそきちんと就職して安定した収入を得ようと思いました。本当に作りたいと思えば、就職しても作りつづけることはできます。また、安定した収入を得られることで、それが支えになる人もいるかもしれません。就職「しないこと」に変に執着する必要はないと思います。
一見美術と関係なさそうに見える場所でも、美大生だからこそできる仕事はあります。せっかくいい技術があり、いい製品を持っている会社があって、でももし消費者から見えにくい立場にあったらそれはすごくもったいないことだと思います。美大生は、デザイン科でなかったとしても、作品やその写真の構図を考えたりして、「見せ方」を意識することはずっとやってきたはずです。その意識があるだけで、他の人よりはものの見せ方を知っているはずなんです。また、「会社の要望もわかるし、デザイナーの都合もなんとなくわかる」というその立場もスムーズにやりとりする上でとても大切だと思いますし、そういった会社とデザイナーのいわゆる橋渡しのような仕事は、美大生だからこそできる仕事だと思います。
私も社会人になってまだ日も浅く、まだまだ分からないことばかりですが、小さい事柄でも自分の得意分野を活かせる部分を探し、会社や酒類業界だけではなく、いつかは工芸やもの作りに携わる方々に沢山の恩返しができるようにがんばります。