
会社員(株式会社バルバ)
長屋 桃子
略歴
平成21年度(2009年)学部卒業
平成23年度(2011年)修士課程修了
NAGAYA
MOMOKO
学生のみなさんへのメッセージ
在学中に取り組んでいた自転車競技から縁が繋がり、修了後は競技用自転車の販売・企画などを行う一般企業に就職しながら作家活動を続けています。
作家一本でやっていくという選択肢もありましたが、就職を決めたのは自分を必要としてくれる企業があったからということと、自分はより幅広い見識を持たなければ作家活動も続けていけなくなるだろうと思ったことと、両立は可能だと思ったからです。
仕事内容は接客や販売促進に始まり、販売後のサポート、イベントの企画・運営、デザイン、プロモーション、ECサイトの運営、人材育成、コミュニティーの形成など多岐に渡ります。単にモノを提供するのではなく、その後のサイクルライフをサポートしたり、情報を発信したり、モノとコトを提供する仕事です。

作家活動としては、仕事の傍ら自宅で制作を続け、個展や展示会のオファーを受けた際に出展し販売などに繋げています。HPやECサイトなども運営し、そこから情報を発信することで、どこからか見つけてくれる人が連絡をくれ、ご縁ができることがあります。また、勤めている企業のお客さんも作品を買って下さいます。
作家一本で行うより効率は悪いかもしれませんが、限られた時間の中で制作をすることでメリハリのついた生活を送ることができますし、より少ないチャンスを活かしてやろうという貪欲さに繋がります。
私が学生の皆さんに伝えたいことがあるとすれば、「仕事とものつくり」は両立できるということと、
「伝える力」を磨き続けることの大切さ、この2つです。
卒業後も制作を続けたいけど、不安だと思っている人もたくさんいると思います。
そういう人はぜひ、就職しながら続けるという選択肢もあるのだということを頭の片隅に置いてみて下さい。
企業人になって本当に良かったと思うことは、ありとあらゆる人と出会い、関わることで得られるものがたくさんあるということです。
多くの出会いの中でいろいろな価値観に触れ、自分の考え方も柔軟になり、この人たちをもっともっと喜ばせたいという想いが仕事へのモチベーションになりますし、エネルギーになります。
そしてこれは、仕事も制作も同じなのです。
同じ芸術の世界の人たちと関わるだけでは得られないものが社会にはたくさんあります。
業種、性別、年齢、価値観、芸術に対する興味の度合いもバラバラの人たちと多く関わり、自分のやっていることを伝える努力をしたり、相手を理解して応えようと思うことは本当に大切なことだとわかります。
そして自分がいかに「伝えられていないか」ということも学ぶことができます。
これだけモノや情報で溢れている現代において、工芸家、職人は寡黙でOKという時代は終わってしまいました。モノは「良くて当たり前」。その上で人はもっと心を揺さぶられる何かを求めています。
それにはまず「伝える力」が必要不可欠になります。伝えるためには相手を「理解する力」も必要ですし、コミュニケーション能力や世の中の流れを知る機会、あらゆるものが必要になります。
作品は、伝わらなければ意味がありません。どんなに技術的に優れていても、どんなに難しいことをやってのけたとしても、相手に伝わり、相手が共感してくれなければ「欲しい」と思ってはもらえません。「欲しい」と思う人がいなければ、その作品は「世の中から必要とされていない」ということになってしまいます。
しかし作品だけで全てを伝えるには限界があります。だからこそ私たちには言葉があり、現在は情報を発信するためのツールもたくさんあります。そういったものをフルに活用し、発信していく。結果的に、より多くの人に必要とされる人であってください。
これは作家としてもそうですが、一人の社会人としてもそうあるべきだと思います。
工芸という分野は常に人のそばにあり、人や生活に寄り添うものだと思います。
どうかそれを忘れず、共感され必要とされる作品を作り続けてください。
どんなに仕事が忙しくても、問題の解決方法さえ間違えなければ、両立していくこと、そしてその両方で成功することは可能だと思います。
在学中からより多くの人と関わり、経験を積み、いろいろな仕事を見てみてください。
そしてどうか安心して社会に飛び出してください。